自然を感じさせることに加え、重視したのは心地よさや快適性だ。
ラウンジにある円形の暖炉は、周りに座った時に炎の向こうに座っている人の顔が見えるよう、それでいてフードが煙を完全に吸い込むよう、火床やフードの高さを計算して作ってある。
スキーに出かけるためのロッカー室は、館内でもスキー場に一番近い場所に設けた。ヨーロッパの一流ホテルでも、ロッカー室はたいがい地下にあって、年輩者が足を滑らせて腰を打ったり怪我したりする姿を何度も見て、疑問に思っていた。スキーリゾートのホテルだということを考えれば、どうすべきかは明らかだ。
壁は、スイスのホテルで求められる防音性能と同じ、D51というレベルを満たすように作った。D値というのは、ふたつの部屋の間の遮音性能を表す数値で、この数値なら隣の部屋の生活音や話声は聞こえない。イタリアのホテルなどでは筒抜けのところも多いし、日本のマンションでも隣人の挙動がわかってしまう部屋があるというが、これなら大丈夫だ。壁の厚さだけでなく、コンセント部分から音が伝わるので、隣の部屋のコンセントとこちらとで位置をずらすなど、細かな点まで対策を講じた。
何日も滞在するお客様も多く、スキーをする方は荷物も多い。客室のクローゼットはウォークインタイプにして、大きな棚を取り付けている。浴室のバスタブにはシャワーカーテンではなく半透明のスライド式の仕切りを取り付けた。ビニール素材のシャワーカーテンは汚れやすく、シャワーを使っている時に体に貼りついてしまったりして、あまり気持ちのいいものではない。浴室にはかなりの高級ホテルでもユニットバスを使っている場合が多いが、グランフェニックスは違う。壁はタイル張り、天井は木質仕上げだ。
楽しみにして来られたお客さまに、「嫌だな」と感じさせるようなことは一切廃したい、という気持ちで隅々まで目を行き届かせたつもりだ。写真の魔術とでもいおうか、ホテルやレストランは、実物よりパンフレットや紹介記事の写真の方がきれいに見えることが多いが、写真よりいいものを作りたい、という思いで取り組んだ。
その後の話になるが、こうしたこだわりと妥協することのない取り組みの甲斐あって、09年に出版されたザガット・サーベイ長野版ではわがホテルが施設部門で1位を獲得している。ちなみに、総合部門でもグランフェニックスは1位に輝いた。ザガット・サーベイは実際の利用者へのアンケート調査で評価するシステムだ。施設に加え、食事やサービスなどホテルマネジメント全般でお客さまから高評価をいただいたことは、なによりの喜びだった。
ランキングで言えば、17年、トリップアドバイザーの登録全ホテルにおけるトップ1%に与えられる「TRAVELERS’ CHOICE Top25 Luxury Hotel-Japan」にも選ばれた。他の受賞ホテルがマンダリンオリエンタルやザ・リッツ・カールトンなど、客室数が数百に及ぶ大規模ホテルばかりである点を考えても、異例の評価をしていただけたと思う。